私と父の部屋は2階にあり、階段と踊り場を挟んで位置しています。
私の部屋ではよく、奇妙な音が聞こえました。
窓のすぐ外で、屋根の瓦を竹の棒か何かで叩くような音が多かったです。眠っていても飛び起きるくらい大きな音がすることもありました。
父は夜中に必ずトイレに行きます。トイレは1階で、スリッパを履いた足音が踊り場から階段、1階の廊下へと続き、トイレのドアを開ける音がします。
私は毎日、この音で目が覚めるのでした。
その日も、父の部屋のドアが開く音が聞こえました。
私は目が覚め、何となく足音を聞いていました。
いつもならすぐに階段を下りる音がするのですが、その日はなぜか、階段を下りる足音がしません。
踊り場をくるくると回っているようです。
酔っぱらってるのかな・・・
父は夕食時に毎日晩酌をしますが、酔っぱらうことはありませんでした。
足音はずっと踊り場をくるくる回っています。
何してるんだろう・・・
そう考えながら、私はベッドの上で体制を変えました。
ギシッ
その音に反応するように、踊り場をくるくる回っていた足音がぴたりと止まりました。
止まった場所は私の部屋の前。そこから微動だにせず、ずっと立ち止まっています。
この時点で、父の足音ではないと思いました。
では誰なのか。それは判りませんが、父とは歩き方が違うんです。
何者かが私の部屋の前でじっと立ちすくんでいると思うと、妙な緊張感にとらわれました。
音がしないように唾を飲み込み、首のあたりに嫌な汗が伝うのを感じました。
気が付くと朝になっていました。
どうやら私はそのまま眠ってしまったようです。足音の主がどこに行ったのか、結局は判らずじまいです。
朝、父に聞いてみました。
「昨日、階段の上歩き回ってた?」
「そんなことしないよ」父は不思議そうな表情で答えました。「そういえば、昨日は珍しくトイレにも起きなかったな」
やはりあの足音は父ではありませんでした。