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【長編】聞いた話② ~消えたビデオテープ~

Cは車で来ており、BとDに送ると行ったが、何となく気が進まず断ったそうです。

BとDも帰る方角が違ったので、Aの家を出てから3人はバラバラに帰りました。

少しして、CからBに電話がかかってきました。

「どうした?」

「事故った・・・」

「えっ? マジか、ケガは?」

「あいつが、あいつが・・・」ブツッ。ツー、ツー、ツー・・・

それ以降、電話をしてもCは出なかったのですが、どうやら自分で救急車を呼び、病院に搬送されたそうです。

数日後、BはCのお見舞いに行きました。

Cのケガは右足の骨折程度でしたが、ひどくやつれて元気がありませんでした。

「大丈夫か?」Bが聞きました。

「ああ。ケガは大したことない。お前は? 大丈夫か?」

「俺? 俺は何ともないよ。そう言えばあの電話の時、『あいつが』って言ってたけど、誰の事?」

「ビデオに写ってたやつさ。あいつが目の前に飛び出してきたんだ。それを避けようとして、壁に激突しちまった」

「ビデオにって、あの白い影みたいな?」

「いや、そっちじゃない。黒い方」

「黒い方?」

「見てないのか?」

「白いのは見たよ」

「・・・そうか。Dのこと聞いたか?」

「Dがどうかしたのか?」

「あいつもこの病院に入院してるんだ。原因不明の高熱で」

「えぇっ!?」

「看護師さんに部屋番号を聞こうとしたんだけど、面会させてもらえなかった。搬送中、『黒い影が』って繰り返してたらしいぜ」

「まさか・・・」

「俺たち、とんでもないことやらかしちまったのかな」

「Aは? Aはどうなんだろ?」

「わからない。電話に出ないんだ」

「俺、行ってくる」

「ああ、頼んだ」

Bは病院を出ると、タクシーに乗ってAの家に向かいました。途中で何度も電話をしてみましたが、やはり出ません。

A宅について、呼び鈴を鳴らします。

「はい」インターホンに出たのはAの母でした。

「Bです。Aはいますか?」AとBは昔からの友達で、お互いの親もよく知っていました。

「Aはね、今いないの」ひどくやつれた声に、Bは驚いたそうです。

「何時ごろ帰宅するか判りますか?」

「いいえ、判らないわ。警察にもお願いしてるの。Bくん、何か知らない? 何でもいいの。Aの行きそうな所とか・・・」

「いや・・・」Bは言葉を失ったそうです。「こんな時に何ですが、前にAの部屋で忘れ物をしてしまいまして、上がらせてもらってもいいですか?」

「どうぞ」

Bは嘘をついてAの部屋に入れてもらい、例のテープを探しました。しかし、どこにもありません。

「忘れ物、見つかった?」

「いいえ、ありません。Aが持って行ってしまったのかな」

「どうかしら。でもAったらね、ケータイも財布も置いて出て行ったの。靴も全部あるの。何でこんなことに・・・」

Bはいたたまれない気持ちになったそうです。

「お母さん、他の友達にも聞いてみますよ。何か判ったら連絡します。今日はこれで」

「ありがとう。お願いね」

 

Bは再びCの入院する病院に行きました。

「どうだった?」

「Aは行方不明らしい」

「そうか」

「驚かないんだな」

「何となくだけど、そんな気がしてた」

「テープ、無くなってた。たぶん、Aが持って行ったんだ」

「そうか・・・。なぁ、お前、ほんとに見たのは白いのだけか?」

「ああ。一体、何が映ってたんだ?」

「逆に、お前は何を見た?」

「廊下の先に白い影がいて、俺たちが近づくといなくなって、角を曲がるとまたその先にいて、近づくと逃げて・・・。まるで俺たちから逃げているようだった」

「ほんとにそれだけ?」

「ああ、それだけ」

「俺・・・、おそらく俺たち3人が観たのは、その白い影の後ろ、つまり俺たち4人とお前も見た白い影の間にもう1体、黒い影がいた」

「えっ!?」

「お前は、白い影は俺たちから逃げているようだったと言ったけど、俺には、黒い影から逃げているようだったよ」

「マジでかよ・・・」

「そしてその黒い影は、俺たちが引き返した上階へ上がる階段の上へと消えていった」

「それだけか?」

「いや、ヤツが上階へ上がる前、一瞬、俺たちの方を見た。正確にはカメラを見た。そしてその映像を見た俺は黒い影と・・・、目が合った」

Bは言葉を失くし、ただCのベッドの横に立っていたそうです。

「お前、ほんとに見てないんだな?」

Bは頷いた。

「じゃあ、ビデオテープのことは忘れろ。Aの事にも、俺にもDにも関わるな。ここにも二度と来ないでくれ」

「え、何で・・・」

「たのむ」

Cの言った通り、それ以降Bはその3人と関わることは無かったそうです。

薄情な人間に思われるかもしれないですが、Cが「たのむ」と言った時、Cは何もない天井を凝視していたそうです。

その時Bは思ったそうです。彼らには、自分には見えない何かが見えている。あのビデオ鑑賞の時も、そして今も。

消えたビデオテープには一体、何が映っていたのでしょうか。