Cは車で来ており、BとDに送ると行ったが、何となく気が進まず断ったそうです。
BとDも帰る方角が違ったので、Aの家を出てから3人はバラバラに帰りました。
少しして、CからBに電話がかかってきました。
「どうした?」
「事故った・・・」
「えっ? マジか、ケガは?」
「あいつが、あいつが・・・」ブツッ。ツー、ツー、ツー・・・
それ以降、電話をしてもCは出なかったのですが、どうやら自分で救急車を呼び、病院に搬送されたそうです。
数日後、BはCのお見舞いに行きました。
Cのケガは右足の骨折程度でしたが、ひどくやつれて元気がありませんでした。
「大丈夫か?」Bが聞きました。
「ああ。ケガは大したことない。お前は? 大丈夫か?」
「俺? 俺は何ともないよ。そう言えばあの電話の時、『あいつが』って言ってたけど、誰の事?」
「ビデオに写ってたやつさ。あいつが目の前に飛び出してきたんだ。それを避けようとして、壁に激突しちまった」
「ビデオにって、あの白い影みたいな?」
「いや、そっちじゃない。黒い方」
「黒い方?」
「見てないのか?」
「白いのは見たよ」
「・・・そうか。Dのこと聞いたか?」
「Dがどうかしたのか?」
「あいつもこの病院に入院してるんだ。原因不明の高熱で」
「えぇっ!?」
「看護師さんに部屋番号を聞こうとしたんだけど、面会させてもらえなかった。搬送中、『黒い影が』って繰り返してたらしいぜ」
「まさか・・・」
「俺たち、とんでもないことやらかしちまったのかな」
「Aは? Aはどうなんだろ?」
「わからない。電話に出ないんだ」
「俺、行ってくる」
「ああ、頼んだ」
Bは病院を出ると、タクシーに乗ってAの家に向かいました。途中で何度も電話をしてみましたが、やはり出ません。
A宅について、呼び鈴を鳴らします。
「はい」インターホンに出たのはAの母でした。
「Bです。Aはいますか?」AとBは昔からの友達で、お互いの親もよく知っていました。
「Aはね、今いないの」ひどくやつれた声に、Bは驚いたそうです。
「何時ごろ帰宅するか判りますか?」
「いいえ、判らないわ。警察にもお願いしてるの。Bくん、何か知らない? 何でもいいの。Aの行きそうな所とか・・・」
「いや・・・」Bは言葉を失ったそうです。「こんな時に何ですが、前にAの部屋で忘れ物をしてしまいまして、上がらせてもらってもいいですか?」
「どうぞ」
Bは嘘をついてAの部屋に入れてもらい、例のテープを探しました。しかし、どこにもありません。
「忘れ物、見つかった?」
「いいえ、ありません。Aが持って行ってしまったのかな」
「どうかしら。でもAったらね、ケータイも財布も置いて出て行ったの。靴も全部あるの。何でこんなことに・・・」
Bはいたたまれない気持ちになったそうです。
「お母さん、他の友達にも聞いてみますよ。何か判ったら連絡します。今日はこれで」
「ありがとう。お願いね」
Bは再びCの入院する病院に行きました。
「どうだった?」
「Aは行方不明らしい」
「そうか」
「驚かないんだな」
「何となくだけど、そんな気がしてた」
「テープ、無くなってた。たぶん、Aが持って行ったんだ」
「そうか・・・。なぁ、お前、ほんとに見たのは白いのだけか?」
「ああ。一体、何が映ってたんだ?」
「逆に、お前は何を見た?」
「廊下の先に白い影がいて、俺たちが近づくといなくなって、角を曲がるとまたその先にいて、近づくと逃げて・・・。まるで俺たちから逃げているようだった」
「ほんとにそれだけ?」
「ああ、それだけ」
「俺・・・、おそらく俺たち3人が観たのは、その白い影の後ろ、つまり俺たち4人とお前も見た白い影の間にもう1体、黒い影がいた」
「えっ!?」
「お前は、白い影は俺たちから逃げているようだったと言ったけど、俺には、黒い影から逃げているようだったよ」
「マジでかよ・・・」
「そしてその黒い影は、俺たちが引き返した上階へ上がる階段の上へと消えていった」
「それだけか?」
「いや、ヤツが上階へ上がる前、一瞬、俺たちの方を見た。正確にはカメラを見た。そしてその映像を見た俺は黒い影と・・・、目が合った」
Bは言葉を失くし、ただCのベッドの横に立っていたそうです。
「お前、ほんとに見てないんだな?」
Bは頷いた。
「じゃあ、ビデオテープのことは忘れろ。Aの事にも、俺にもDにも関わるな。ここにも二度と来ないでくれ」
「え、何で・・・」
「たのむ」
Cの言った通り、それ以降Bはその3人と関わることは無かったそうです。
薄情な人間に思われるかもしれないですが、Cが「たのむ」と言った時、Cは何もない天井を凝視していたそうです。
その時Bは思ったそうです。彼らには、自分には見えない何かが見えている。あのビデオ鑑賞の時も、そして今も。
消えたビデオテープには一体、何が映っていたのでしょうか。